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お役立ちコラム

2019.06.07

事業承継について

いま事業承継が大きな問題になっています。日本の企業の99%は、小規模企業者を含めた中小企業で占められ、それらの経営者の多くが引退の時期に差し掛かっています。多くの企業で事業承継が待ったなしの状況です。

髙橋会計事務所では事業承継税制と事業承継時の資金調達を中心に、事業承継が必要な方のサポートをしています。

<当事務所のサービス内容>

●事業承継税制のコンサルティング
●事業承継特例承認計画の作成
●事業承継必要資金のコンサルティング

<事業承継インフォ―メーション>

1.事業承継の必要性

現在、中小企業経営者・小規模事業者の高齢化が進んでおり、今後10年の間に、平均引退年齢である70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人になります。それにもかかわらず、その半数の約127万人(日本企業全体の3分の1)が事業承継の準備を終えていないと言われています。

現状をそのまま放置すれば、中小企業の廃業が今後続出し、2025年頃までの10年間で、累計約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われるおそれがあるとされ、特に、地域経済に深刻な打撃を与えるおそれがあると考えられています。(中小企業庁「平成30年度 中小企業・小規模事業者関係 税制改正について4頁」参照)

事業承継とは、現経営者から後継者へ事業のバトンタッチを行うことですが、企業がこれまで培ってきたさまざまな財産(人・物・金・知的資産)を後継者に上手に引き継ぐことにより、承継後の経営を安定させることができます。

中小企業の企業運営の多くの部分は、経営者の経営能力、意欲に依存していますので、経営者の高齢化と後継者難は、業績悪化や廃業に直結する問題です。中小企業・小規模事業者が有する技術やノウハウ等の貴重な経営資源を喪失させないためにも、後継者の確保はもちろん、円滑な事業承継に向けて、後継者の養成や資産・負債の引継ぎ等中長期にわたる準備に、早期から計画的に取り組むことが求められます。

事業承継対策をしないと、様々な理由で事業が不安定になり、事業の継続が困難となってしまいます。

例えば、事業を誰に引き継ぐのかが決まっていないと、相続問題が相続人間の相続争いとなって経営権が確保できず、事業継続が困難となって廃業ということもあります。社長が高齢で事業承継が進んでいないと従業員が不安を感じ、転職してしまうかも知れません。
また、事業承継税制の活用など相続税対策が出来ていないと、自社株の相続にあたり多額の相続税がかかって、税金の負担が大きすぎることにより経営難に陥ることもあります。

表1 事業承継をした場合としない場合

  事業承継が進んでいると 事業承継をしないと
事業 安定、発展の可能性権 不安定、最悪の場合は廃業・倒産
経営権 継続される 確保できない(株式分散)
取引先 取引の維持、発展 取引継続の不安
従業員 安心、雇用の維持 不安、退職
相続税 事業承継税制等の活用により大幅に軽減 多額の負担により経営難に陥る可能性あり

2.事業承継の課題

(1)誰に事業を承継させるのか
事業承継の承継先としては、次の3つが挙げられます。

①親族内承継
親族に候補者がいる場合には、当然、その親族に承継されるものと思われます。しかし、最近では後継者不足により他の方法を選択せざるを得ないケースも少なくありません。

②親族外承継
親族内承継が減少していることにより、親族以外の社内の役員・従業員に承継する方法も増えています。

③社外者承継
M&Aなどにより社外へ引継ぐ方法です。親族にも、社内にも適任者がいない場合には、社外へ引き継ぐしかありません。後継者が見つからないまま廃業するのではなく、企業価値が残っているうちに事業を売却してしまうのもひとつの方法です。

(2)借入金過多と個人保証
金融機関からの借入比率が高い場合や代表者の個人保証が求められる場合には、後継者の確保が難しくなります。

(3)承継するときの税金対策
中小企業・小規模事業の事業承継については、早急な対策を講じることが求められていることから、平成30年税制改正において、事業承継税制の要件が大幅に緩和されました。その利用を検討する必要があります。

(4)承継のための資金調達
事業承継のためには資金が必要になります。

日本政策金融公庫の事業承継計画を実施するために必要な設備資金および長期運転資金の融資制度、事業承継の際の代表者個人が必要とする資金の低利融資と信用保証制度、経営者交代による承継後に新しい取組を行った場合などに支給さる事業承継補助金などの利用が可能です。

表2 各事業承継先の利点と留意点

親族内承継 利点 ・オーナー家としての地位・財産・経営を継続できる。
・従業員をはじめ社内外の関係者から受け入れられやすい。
  ・財産の承継において税制面の制度が充実している。
留意点 ・後継者としての適格性判断が甘くなる傾向がある。
・後継者以外にも相続人がいる場合は株式の分散化リスクがある。
親族外社内承継 利点 ・社内外から広く後継者候補を求めることができる。
・後継者としての適格性判断に時間がかからない。
・親族に適任者がいなくても会社を残すことができる。
留意点 ・後継者が株式を取得するための資金力が問題になる
・代表者の債務保証や担保設定の後継者への切替えが問題になる。
社外者承継 利点 ・身近に後継者がいない場合でも事業は継続できる。
・従業員の雇用確保が可能性となる。
・会社売却により利益を獲得できる。
留意点 ・希望条件を満たす買い手を探すは容易ではない。
・株式100%保有などの条件を満たしておく必要がある。

3.事業承継時の個人保証

事業承継時の個人保証については、後継者が負担の大きな個人保証に耐えられるかという問題があります。後継者やその家族が大きな債務を背負うことへの心配から承継しないという選択肢を選ぶことがあります。

また、金融機関などの債権者側からは、後継者の資力などの問題から円滑に認めない場合があります。

事業承継が行われた場合、一般的に、銀行が連帯保証人の追加を要求してきます。本来であれば、後継者の個人保証への変更でよいと思われますが、後継者の財産背景が先代経営者と同等以上というケースでもない限り、単なる保証人の変更というわけには行かないようです。金融機関は先代経営者に対して融資を行ったのであり、後継者に対して行ったのではないからです。

この問題に対しては、既存融資の借換えによって既存融資を完済した形にすることで、現経営者の連帯保証を抜いていくことが可能ではあります。

金融庁が大手銀行や地方銀行など全国548の金融機関を対象に実施した調査によると、2017年10月~18年3月に事業承継があった取引先のうち、二重の保証取得は36.8%、旧経営者の保証を解除し、新経営者からも取らなかったのは9.5%あったとのことです(SunkeiBiz 2018/8/28)(表3参照)。

経営者保証ガイドラインでは、金融機関が経営者保証の解除に応ずるためには、表4の要件が必要とされていますので、まずは、これに従って対策していく必要があります。

また、ガイドラインでは、事業承継時に金融機関に対して、現経営者との保証契約を解除することについて検討することを求め、あるいは後継者との保証契約の必要性等について改めて検討することを求めています(表5)。

つまり、ガイドラインによれば、会社の経営状態が表4に掲げるような一定の要件を満たしていれば、社長交代に当たって、後継者が個人保証を引き継がないことも可能なのです。

事業承継時の個人保証の問題については、出来るだけ借入金を減らしておく、出来るだけガイドラインの個人保証なしの要件に近づいていく、ガイドラインを根拠に銀行と粘り強く交渉することにより個人保証なしの承継を目指したいところです。

表3 事業承継時の保証状況の調査

  件数 割合
取引先事業承継の総件数
(2017年10月~18年3月)
25,732件 100%
旧経営者と新経営者
二重の個人保証取得
9,349件 36.3%
旧経営者の保証解除
新経営者の保証なし
2,438件 9.5%

表4 経営者保証ガイドラインによる経営者保証なしの融資要件

(1)会社と経営者との関係の明確な区分
 ①事業用資産は法人所有とする。
 ②法人から経営者への貸し付けは行わない。個人的に消費した費用を法人の経費として処理しない。
 ③取締役会の適切な牽制機能の発揮等による社内管理体制を整備する。
(2)財務基盤の強化
 ①借入金の返済のキャッシュフローを確保する。
 ②内部保留の蓄積をする。
(3)経営の透明性確保
 ①決算報告だけでなく、試算表や資金繰り表の定期的な提出
 ②中小会計要領に拠った計算書類の作成

表5 経営者保証ガイドラインによる事業承継時の個人保証についての対応

(1)会社及び後継者における対応
 ①会社及び後継者は、債権者からの情報開示の要請に対し適時適切に対応する。特に、経営者の交代により経営方針や事業計画等に変更が生じる場合には、その点についてより誠実かつ丁寧に、債権者に対して説明を行う。
 ②会社が、後継者による個人保証を提供することなしに、債権者から新たに資金調達することを希望する場合には、会社及び後継者は表1に掲げる経営状況であることが求められる。
(2)金融機関等における対応
 ①後継者との保証契約の締結について
債権者は、前経営者が負担する保証債務について、後継者に当然に引き継がせるのではなく、必要な情報開示を得た上で、経営者保証の機能を代替する融資手法を踏まえつつ、保証契約の必要性等について改めて検討する。
その結果、保証契約を締結する場合には、適切な保証金額の設定に努めるとともに、保証契約の必要性等について会社及び後継者に対して丁寧かつ具体的に説明する。
 ②前経営者との保証契約の解除について
対象債権者は、前経営者から保証契約の解除を求められた場合には、前経営者が引き続き実質的な経営権・支配権を有しているか否か、当該保証契約以外の手段による既存債権の保全の状況、法人の資産・収益力による借入返済能力等を勘案しつつ、保証契約の解除について適切に判断する。

4.事業承継時の現経営者の担保と貸借

現経営者の担保資産を後継者の担保資産に切り替えられればよいのですが、後継者が十分な資産を持っているとは限らず、実行できるケースは少ないようです。

理想は、現経営者の担保を外してもらうことですが、金融機関の承諾を得ることはむずかしいものと思われます。

このような時は、当面の間は現経営者が担保提供を継続しながら、その間に借入金の返済と財務状況の改善を行い、担保がなくても問題がない状態に会社を変えていくべきでしょう。

また、後継者が処理に苦慮しないように、現経営者と会社との間でどのような金銭の貸借関係になっているかを正確に把握、整理しておくことも必要です。出来るだけ計画的な返済を進め、事業承継時には多額な貸し借りがないようにしておくべきです。

会社からの借入金については、現経営者への退職金などを活用して、精算することなども考えられます。

会社への貸付金の場合には、返済の目途が立たないようでしたら、ケースバイケースで、、代物弁済をする、債権放棄してもらう、資本金に振り替えてもらうことなども検討してみましょう。

5.事業承継税制

これまでの事業承継税制は適用要件が厳しいため使い勝手が悪く、利用する経営者はわずかでした。これが平成30年税制改正により要件が大幅に緩和され使いやすくなりました。今回は、使い勝手よくなった事業承継税制について解説します。

(1)納税猶予の対象となる株式数の上限撤廃と納税猶予割合の拡大
事業承継税制をわかりやすく言うと、経営者がその保有する自社株式を、後継者に贈与、もしくは相続により渡す際に、課せられる税金を一旦は猶予し、その後条件付きで一定期間保有することにより税金を免除するというものです。納税猶予とは、払うべき税金をとりあえずは払わないで済むということです。

事業承継税制の正式名称は、「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除」及び「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除」といいます。

これまで納税猶予の対象となる株式数は、全株式の3分の2という上限がありましたが、改正により全株式が対象になりました。

また相続の場合の猶予割合は80%でしたが、これが100%になりました。つまり、これまでは納税猶予が受けられる株式数は全株の53%程度(1×2/3×80%)でしたが、改正により100%の株式について納税猶予が受けられるようになりました。

(2)納税猶予対象者の拡大
これまでは一人の先代経営者から1人の後継者、つまり1対1の事業承継について適用されていましたが、改正により複数人からの承継、複数人への承継のいずれも可能となりました。例えば、全株式の60%を保有する先代経営者の父親からだけの承継だけでなく、30%を保有する母親からの承継も納税猶予の対象になります。あるいは全株式の100%を保有する先代経営者の父親から長男へ50%、次男へ50%承継した場合で対象になります。

このように、複数の株主から、後継者の方も最大3名までの複数同士の事業承継が可能になりました。

(3)雇用確保要件の緩和
これまでは、贈与・相続後の5年間の平均で雇用を8割維持することが求められていましたが、中小企業においては人手不足や働き方改革が問われ、そういった環境の中で8割維持をすることは困難な要件となっていました。もし、この要件を満たせなかったとしたら、その時点で猶予期限が確定し、猶予されていた多大な贈与税又は相続税を納めなければならないという納税リスクが存在していました。

今回の改正では、雇用要件は存続するものの、満たさなかったからといって直ぐに猶予期限が確定する(税金を払う必要が出てくる)というわけではなく、後継者の死亡の日等まで納税が猶予されます。

ただし、この場合には、その満たせなかった理由等を記載した一定の書類を都道府県に提出しなければなりません。なお、その理由が経営状況の悪化である場合又は正当なものと認められない場合には、認定経営革新等支援機関から指導・助言を受けて、書類にその内容を記載する必要があります。

(4)事業廃止や自社株を譲渡した場合の納税額
これまでは廃業したり、自社株を譲渡したりすると、納税猶予されていた贈与税や相続税を払わなければなりませんでした。

これが改正により、経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合には、廃業時や売却時の株式評価額を基に税額を再計算し、再計算した税額を納税するだけで、当初の猶予額との差額が免除されます。事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除制度が創設されました。

以上により、中小企業者は贈与時および相続時の税負担がゼロで、後継者に自社の株式を承継させることが可能となりました。

ただし、特例制度を適用するには、2018年4月1日から2023年3月31日までの間に特例承継計画を都道府県に提出する必要があります。この特例承認計画は認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けて、承継時までの経営見通し等を記載する必要があります。

なお、平成30年度改正は、これまでの事業承継税制の特例であり、2018年1月1日から2027年12月31日までの間に取得する財産に係る贈与又は相続等についてのみ適用される10年間の時限措置となっています。

表6  従来の制度(一般措置)と特例措置(平成30年改正)

  従来の制度
(一般措置)
特例措置
(平成30年改正)
適用期限 なし 10年以内の贈与・相続等
(2018年~2027年)
事前の計画策定等 不要 5年以内に特例承認計画の提出
納税猶予対象株数 総株式数の最大3分の2まで 全株式
納税猶予割合 贈与100%、相続80% 贈与100%、相続100%
承継パターン 1人の株主から1人の後継者 複数の株主から最大3人の後継者
雇用確保要件 承継後5年間平均8割の雇用維持が必要 弾力化
(実質撤廃)
事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 民事再生・会社更生時にその時点の評価額で相続税を再計算し、超える部分の猶予税額を免除 一般措置に譲渡・合併による消滅・解散等を加える
相続時精算課税
(※)
推定相続人等の後継者のみ 推定相続人等以外の人も適用可能

※相続時精算課税制度の適用対象者は推定相続人と孫のみです。これが改正による特例制度では、推定相続人と孫以外の親族や第三者でも相続時精算課税制度の適用を受けて非上場株式の贈与・相続税の納税猶予の適用を受けることができるようになりました。

6.事業承継時に必要な資金

事業承継においては、後継者が経営権を確保するため、自社株式や会社の事業に使っている土地などの事業用資産を取得する必要があります。
想定される必要資金は、親族内承継の場合と親族外承継では異なります。事業承継のパターン別に、主に考えられる資金として、図表のようなものがあります。

その他、事業承継を行う前に会社を整備する費用などが必要になることもあります。たとえば、少しでも良い条件で買い取ってもらうために、古くなった設備を整えておくことなどが考えられます。

さらに、実際に事業承継したあとに後継者が経営の改善を図る場合の資金や、経営革新を行うためにかかる資金が必要になることもあります。これらの資金も事業継承に関わるものとして考えることができます。

また、経営者が交代すると、対外的な信用面に影響が出でくる場合があります。金融機関の信用状況に反映されたり、取引先の対応に影響が表れたりすることもあります。

例えば、取引先からの支払い条件が厳しくなり、従来は後払いで可能だった仕入れ代金や外注費が前払いに変更されるような場合です。

さらに、金融機関の融資条件が悪化して運転資金や設備投資のための資金調達が困難になってしまうこともあります。このような場合の資金調達も事業承継に伴う資金として考えることができます。

これらの事業承継に伴う資金が、後継者の自己資金でまかなえれば問題はありません。 

しかし、会社の役員または従業員が事業承継する場合、個人事業主などが買い取る場合などには、自己資金だけでは限界があります。 

会社の規模が大きくなるほど、必要な資金が大きくなります。円滑な事業承継を実現するためには、スムーズ資金調達が必要になってきます。資金調達ができなければ、事業承継も難しくなります。

事業承継にかかる資金調達方法としては、民間金融機関からの融資もありますが、政府系金融機関からの低利融資を利用するとよいでしょう。

その場合に活用したいのが経営承継円滑化法に基づいた金融支援です。経営承継円滑化法とは、中小企業や小規模事業者の持続とその発展を目的とした法律です。時代の変遷とともに、親族内承継から親族外承継へと形態が変化したことを受けて成立しました。事業承継の円滑化を図る以外に、中小企業や小規模事業者の発展に向けてのさまざまなサポートも期待できます。

経営承継円滑化法では、事業承継を円滑に進める対策のひとつとして、低金利での事業承継に関わる資金調達を可能にしています。 

この金融支援やサポートを受けるには、都道府県知事の認定を受ける必要があります。

①日本政策金融公庫
会社や、後継者である個人事業主あるいは代表者個人が資金を必要とする場合に、日本政策金融公庫あるいは沖縄振興開発金融公庫が低利融資制度により支援しています。

日本政策金融公庫では、通常は個人を融資対象にはしておらず、この部分だけでも特別な措置といえます。日本政策金融公庫で融資を受けられる資金には、事業承継で必要な設備投資以外に長期的な運転資金も含まれます。

②信用保証
低金利融資だけでなく、信用保証協会でも通常とは異なる別枠の保証が利用できます。
経営承継円滑化法に基づく認定を得た会社及び個人事業主が、事業承継に関する資金を金融機関から借り入れる場合には、信用保証協会の通常の保証枠とは別枠が用意されています。

事業承継に関する資金を金融機関から借り入れる場合、通常の保証枠(普通保険:2億円、無担保保険:8,000万円、特別小口保険:1,250万円)とは別枠で、同額の保証枠(普通保険:2億円、無担保保険:8,000万円、特別小口保険:1,250万円)が用意されています。
なお、代表者個人は、信用保証協会の保証の対象になりません。

③制度融資
各都道府県には地域の中小企業者が事業承継を行う際の資金ニーズを支援するための融資制度を設けています。

図表7 事業承継にかかわる必要資金

  資金の種類
事業承継時 親族内承継 ・後継者が、相続等で分散した自社株式や事業用資産を買い取るための資金
・後継者が、相続や贈与によって自社株式や事業用資産を取得した場合の納税資金
・会社が相続などで分散した自社株式や事業用資産を買い取るための資金
親族内承継 ・役員や従業員が、株式や事業の一部を買い取って事業の承継を行うための資金
事業 承継後 共通 ・事業承継したあとに後継者が経営の改善を図る場合の資金や、経営革新を行うためにかかる資金
・経営者交代後の対外的信用力低下時の必要資金

図表8 日本政策金融公庫の低利融資が受けられる場合

1 会社又は個人事業主が、後継者不在などにより事業継続が困難となっている会社から、事業や株式の譲渡などにより事業を承継する場合
2  会社が株主から自社株式や事業用資産を買い取る場合
3  後継者である個人事業主が、事業用資産を買い取る場合
4  経営承継円滑化法に基づく認定を受けた会社の代表者個人が、自社株式や事業用資産の買い取りや、相続税や贈与税の納税などを行う場合

7.事業承継時の個人保証解消について

個人保証が事業承継にとって大きな障害となっています。1つは旧経営者と後継者の二重保証の問題で、もう1つは個人保証を理由とした後継者候補の承継拒否の問題です。これらの解決に向けた取組みが始まりました。

⑴ 個人保証二重取りは原則禁止

中小企業が融資を受ければ、経営者は個人保証を求められます。それに伴い、多くの経営者は会社の連帯保証人となっているのが現状です。さらに事業承継を行った場合には、後継者は連帯保証を引き継ぐように、金融機関から求められます。

この経営者保証が事業承継にとって大きな問題となっています。

事業承継にあたり後継者候補はいるが、その候補者が事業承継を拒否しているケースが数多く見受けられます。拒否の理由の約60%は個人保証があるからとされています。

また事業承継が行われた場合には、旧経営者の保証を残し、後継者からも保証を取る二重徴求が約20%あり、後継者が保証を提供するケース約60%とされています。先代経営者・後継経営者の「二重保証」の問題で、大きな負担になっています。

これに対し、円滑な事業承継を図る国の方針に基づいて(注1)、全国銀行協会と日本商工会議所は、中小企業が事業を承継する際に、融資している金融機関が先代と後継者の双方の経営者から個人保証をとることを原則禁止することにしました。

この取扱いは、「経営者保証に関するガイドライン」(2014年適用開始)の指針の特則として位置づけられるものです(注2)。

例外的に双方への個人保証が必要な場合については制限的に事例を列挙し(図表1)、金融機関が都合のよい拡大解釈をなくすようにしています。

どうしても二重取りが必要なケースについては、前経営者と後継者にその理由を説明して、保証が提供されない場合に融資の条件がどのように変わるかについて中小企業に説明し理解してもらうことを求めています。

もっとも、これはあくまでガイドライン」であり「法律ではない」こと、そして「原則」とされていることから、二重取りは全て禁止というわけではありません。

また、このような変更があったとしても、金融機関から「保証なしにします」と提案が来るものではありません。債務者である企業側から金融機関に対し、「保証人を外して欲しい」と積極的に申し出る必要があります。

経営者保証ガイドラインでは経営者保証の解除のためには、次の3つの条件が満たされる必要があります。

① 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
② 財務基盤の強化
③ 適時適切な情報開示による経営の透明性確保

日ごろからこれらの条件が満たされるような経営体制を構築していく必要があることは言うまでもありません。

(注1) 事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について(中小企業庁金融課)
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/hosyoukaijo/index.htm

(注2) 事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則
https://www.zenginkyo.or.jp/news/2019/n122401/

図表1 二重徴求が許容される事例

事例1 前経営者が死亡し、相続確定までの間、亡くなった前経営者の保証を解除せずに後継者から保証を求める場合など、事務手続完了後に前経営者等の保証解除が予定されているで、一時的に二重徴求となる場合
事例2 法人から前経営者に対する多額の貸付金等の債権が残存しており、その債権が返済されない場合に法人の債務返済能力を著しく毀損するなど、前経営者に対する保証を解除することが著しく公平性を欠くことを理由として、後継者が前経営者の保証を解除しないことを求めている場合
事例3 条件変更など金融支援を実施している先、又は元金等の返済が事実上延滞している先であって、前経営者から後継者への多額の資産等の移転が行われている、又は法人から前経営者と後継者の双方に対し多額の貸付金等の債権が残存しているなどの特段の理由により、当初見込んでいた経営者保証の効果が大きく損なわれるために、前経営者と後継者の双方から保証を求めなければ、金融支援を継続することが困難となる場合
事例4 前経営者、後継者の双方から、専ら自らの事情により保証提供の申し出があり、本特則上の二重徴求の取扱いを十分説明したものの、申し出の意向が変らない場合(自署・押印された書面の提出を受けるなどにより、対象債権者から要求されたものではないことが必要)

⑵新たな信用保証制度の創設と商工中金の原則無保証化

金融機関による更なる経営者保証の解除を後押しするために、一定の要件を満たす企業について経営者保証を解除することを前提に、金融機関にとって使いやすい新たな信用保証制度(図表2)が令和2年4月から始まります。

事業承継特別保証制度という名称で、事業承継時に利用するものですが、事業承継後にも利用ができる場合があります。これを利用すれば、経営者保証ありの既存の借入金についても借換可能です。

さらに経営者保証コーディネーター(注3)による確認を受けた場合には信用保証料率が大幅に軽減されます。

これにより、制度要件を満たせば、新・旧経営者双方の経営者保証なしに事業を引き継ぐことが可能になります。

また商工中金は、「経営者保証に関するガイドライン」の徹底により、一定の条件を満たす企業に対して原則無保証化することになりました。

商工中金においては「ビジネスモデル等に係る業務の改善計画」及び「商工中金経営改革プログラム」に基づき、経営者保証ガイドラインの徹底を図っています。

具体的には、融資の申し込みがあった場合や、保証契約の変更・解除の申出があった場合には、経営者保証ガイドライン(特則含む)に則り、保証の必要性の検討を行うこととされています。

検討にあたって融資先企業とのリレーションを通じて把握した内容や事業性評価の内容を考慮して、総合的な判断として経営者保証を受け入れない可能性を検討するともに、必要に応じて、停止条件付連帯保証(注4)等の経営者保証に代替する融資手法を活用することとされています。

(注3)「経営者保証コーディネーター」は、中小企業庁の委託事業として令和2年度から開始する「事業承継時の経営者保証解除に向けた専門家支援スキーム」において、経営者保証がネックで事業承継に課題を抱える中小企業を対象に、派遣等される専門家(主に中小企業診断士や税理士、弁護士等)。

(注4)停止条件付保証契約とは、主たる債務者が特約条項(コベナンツ)に抵触しない限り保証債務の効力が発生しない保証契約。

図表1 経営者保証を不要とする新たな信用保証制度

名称 事業承継特別保証制度
申込人資格要件 次の(1)かつ(2)に該当する中小企業者
⑴ 3年以内に事業承継(=代表者交代等)を予定する事業承継計画を有する法人又は一定の期間内に事業承継を実施した法人であって、承継日から3年を経過していないもの
⑵ 次の①から④の全ての要件を満たすこと
①資産超過であること
②返済緩和中ではないこと
③EBITDA有利子負債倍率((借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費))が10倍以内
④法人と経営者の分離がなされていること
申込方法 与信取引のある金融機関経由に限る
保証限度額等 2.8億円(うち無担保80百万円)
責任共有制度(8割保証)の対象
保証期間 10年以内
対象資金 事業承継時までに必要な事業資金
既存のプロパー借入金(保証人あり)の本制度による借り換えも可能
(ただし、一定の期間内に事業承継を実施した法人に対しては、事業承継前の借入金に係る借換資金に限る)
保証料率 0.45%~1.90%【経営者保証コーディネーターによる確認を受けた場合、0.20%~1.15%に大幅軽減】
添付資料 信用保証協会所定の申込資料のほか、次の資料が必要
(1) 事業承継計画書
(2) 財務要件等確認書
(3) 借換債務等確認書(既往借入金を借り換える場合)
(4) 他行借換依頼書兼確認書(既往借入金を借り換える場合で、申込金融機関以外からの借入金を含む場合)
(5) 事業承継時判断材料チェックシート(経営者保証コーディネーターによる確認を受け、上記0.20%~1.15%の信用保証料率の適用を受ける場合)

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